◇「買わざるリスク」と「高値掴みの恐怖」のはざま

コモディティ・アナリシス

2020年 12月31日

◎ドル安展望に変化の兆し
 米長期金利が段階的に切り上がる中、直近数営業日の商いにおいては、連邦準備制度理事会(FRB)が、政策正常化の議論を6月にも開始するとの臆測から、ドルインデックスが巻き戻しに転じ、ゴールドは昨年12月からの上昇を帳消しにする下げを演じた。
 伏線として、直近ではFRB高官によるQE縮小時期に関連する言及がなされていたこともあり、昨年12月から今年1月の短期間における潮目の変化を警戒し、バイアスを中立に回帰させる動きにつながったと推測する。
「買わざるリスク」と「高値掴みの恐怖」のはざまで二の足を踏んでいた投資家にとっては、金に対するマインドをリセットする上で良い調整になってくれたのではないだろうか。

 ◇2020年の投機ポジション動向
 米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉動向、そしてゴールドを取り巻く関連銘柄とのサイクルも確認しておきたい。
 CFTC建玉報告におけるネットベースの大口投機ポジションの増減に関しては、ゴールドETF残高と同様、単体では考察に値する場面が減少したように見受けられる。背景の一つとしては、インフレヘッジ、決済手段、新興国通貨の資産防衛の受け皿として評価されたもう一つの代替通貨である「ビットコイン」の躍進が挙げられる。
 ゴールド先物市場から中長期スパンにおける投機的性質の資金が流出した結果、ゲームの均衡化につながるような玉が育たなかった。取組高の動向は、シンプルに現状を物語っており、市場参加者がさらなる高値更新を期待していた2020年8月を境にピークアウトし、価格も同様に緩やかな右肩下がりを形成することとなった。
 運用者の目線に立てば、資金効率の観点において、パフォーマンスを期待できない市場から資金を引き揚げるのは自然な考えであり、ロールコストだけを計上し、ポジションを保有し続ける道理は無い。つまり、市場に残された玉、または板のビッドアスクを形成し、流動性を与えているのはディーラーのポジションであり、不合理を生むようなポジションは育ちにくく、結果として、20年の投機大口ポジションは考察する上での重要性に欠けた、と考える。

 ◇相関性とサイクル
 大口ポジション動向が「見えづらい」状況であれば、相関性から巻き返しのサイクルを探ることができるかもしれない。多少テクニカル寄りの視点ではあるが、運用者が頭の中で(時として現実にも)長中短期のアカウントを分けるように、分析方法も、ファンダメンタルズ、内外部、相関性や均衡化といったテクニカル分析などに振り分け、それぞれを思慮深く観察する必要があると考える。
 日足の相関性をベースとした分析で注目すると、例えば、ゴールドとユーロ、そしてドルインデックスの間では、20年11月末と12月初めの間において自律調整のサイクルが意識される段階にあり、以降、ゴールドは緩やかな巻き戻しを演じることとなった。しかしながら相関係数は、他の関連ツールもそうだが、単体での考察において脆弱(ぜいじゃく)であり、特に、心理的要因など、その他の要因や事象にも留意しておく必要がある。
 その心理的要因に関しては、例えば、CFTC建玉報告(COT)の小口の建玉に置き換えることも可能かもしれない。できればオプションを含むポジションが望ましい。それらの動向は、短期目線で変動し、実際の価格動向ともリンクする傾向にあり、商品と市場構造にもよるが、基本、上述の3銘柄は素直にシンクロしやすいと考える。
 直近では、20年12月初旬(12月1日〜8日のCOTデータ)の小口ネットにおいて、ユーロ比でゴールドの巻き戻しが意識される水準となっていたが、この小口動向と上述の相関性を重ね合わせることで、ゴールドの方向性と切り返しのタイミングにより説得力が増すものと思われる。
 ただ、ここで強調すべきは、単体においては物事の傾向を示す一つの事象に過ぎず、重要なことは、上述の要因を重層的に積み上げ、思慮深く分析することになる。
 単一の材料、シグナルをむやみに信じると20年8月のような高値掴みになる可能性もある。要因は、ファンダメンタルをベースに、段階的に、重層的かつ思慮深く分析すべきものと考える。(了)

 ※吉中 晋吾(よしなか・しんご)氏 バーグインベスト 代表取締役

出典:時事通信社
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