ゴールド、“ディーラー”好みの相場

コモディティ・アナリシス

2020.04.06
◎アンワインド
需給逼迫(ひっぱく)を背景とした3月末までの荒れ相場も一段落し、金市場は、新たな局面をうかがう調整段階にある。現状、静観スタンスの運用者も少なくなく、先物市場におけるアンワインド(スポットの衝撃と、その余波を受けた遠いコントラクトの間に生じた誤りを“ほぐす”過程)を眺めつつ、一時的に手綱を緩めた状態。新たな流れに対応すべく、リスクアセットを極限まで絞り、口座の健全性を維持するための調整局面にある。

◇“ディーラー”好みの相場
3月24日ごろ以降、価格の振れ幅が落ち着くと同時に、出来高もピークアウトから右肩下がりの展開となったが、3月通しで見た場合、この荒れ相場の中、最も躍動したのは“ディーラー”という存在であったかもしれない。
大衆目線では、3月中旬の1460ドルのレンジがピンポイントで意識される事となったが、ディーラー目線では、3月は「満遍なく好機が敷き詰められた状態」が続いた。
要因は言うまでもなく、需給逼迫(ひっぱく)から生じた「値幅」であり、この「値幅」こそがプロのディーラーであり続けるための生命線になる。
金需要が高まる中、新型コロナの影響で精錬施設が閉鎖されるなど、一時的な供給障害が発生した事から、スポット市場ほか一部の金先物市場に対してCOMEXがプレミアムに。
大衆の不安と動揺が起爆剤となり、プレミアムの振れ幅(値幅)が拡大し、プロのディーラーが流動性を与える(つまりリスクテイクする)事で、マーケットは“相場”と化す。以降、誤りのループが繰り返され、最終的には、資金量と保有期間で優位に立てるディーラーが流動性リスクで“鎌を掛け”、「自己主張の強いトレーダー」にジョーカーを引かせる事でチキンレースが終了する。※勝負の世界では、主張すればするほど、自身の身を危険にさらす事になる。本当に優れた運用者は、極力、過小評価を保ちつつ、自身の気配を消す事に努め、生涯が学びである事を肝に銘じている。
“価格”は動くが“値幅”が動かないことに業を煮やしていたディーラーにとっては、今回の供給障害はよいガス抜きになったのではないだろうか。
ちなみに、今回は、表向きには、「(ロンドン、COMEX間の)単位の相違、在庫量の問題」がプレミアム解消の背景として片づけられていたが、リアルの世界では、残念ながら理論による武装や後講釈は何の意味もなさない。

◇最短距離を狙うから当たらない
価格のみに集中していると、展開の速さに付いて行けない投資家も少なくない。
例えば、150kmの速球に対して、バットを最短距離で斜めから振り下ろすと、球に当てる事のできる確率は低いと筆者は考えているのだが、マーケットも同様に、価格の上下動だけに狙いを定めてしまうと、タイミングをつかむのに苦慮する傾向にある。
マインドを切り替え、軌道に沿って振り抜くイメージの方が、より良い結果が得られる可能性が高いと考える。
金価格ではなく、金市場が描く軌道(イールドの話ではない)であり、その軌道の中では比較的容易にポイントを絞りやすくなる。
優位的な位置を確保できるかどうかがより重要、と言い換えられるかもしれない。

◇現場の目
3月末以降は、ひと仕事を終え、お休みモードの運用者も多い。論より証拠、板を見れば一目瞭然。筆者(と筆者の会社)も同様、アカウントの健全性を保ち、四方八方に対応できるよう、心穏やかにストレッチを続けている状況下にある。
ただ、個人的な考えではあるが、今は、「上がるか下がる」といった視点から距離を置き、自身の行動が、本当の意味で将来の基盤を築けるかどうかを念頭に、しっかりと足元を見つめ直すための時期と言えるかもしれない。
正直、将来の価格を予想するのは疲れる。
出来る事があるとすれば、不要なもの、削るものが何かを考える事。
ノイズを排除した後に浮き彫りになったもの、それが真の投資対象になると考える。

今は、腰を据えて、あまり難しく考えず、自身の基盤を作るためだけに集中する時期であると感じている。

出典:時事通信社
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