ゴールド、移動コストとセオリーの反対側

コモディティ・アナリシス

2020年03月18日
◎仕切り直し ※記事は日本時間17日午前時点のものです
3月9日、原油相場がクラッシュして以降、市場では、金融政策の限界と信用リスクに対する警戒感に支配される中、シンプルな損失補填(ほてん)として機能していた金先物売りの流れは一巡し、米国債、金ETFを含め、口座バランスを維持するための新たな売りのサイクルが生まれた。
3月16日の商いにおいては、ニューヨーク・ダウのサーキットブレーカー発動に伴う長時間の目隠し状態が続く中、方向感覚を失った市場は売り一色の展開に。金市場では1500ドルを割り込む場面も見られたが、売りの勢いは、金市場における第2段階目の上昇相場の入り口であり、ファンドがロング・ポジションを建て始めた水準でもある1460ドル台でいったん落ち着くこととなった。

◇移動コスト
米連邦準備制度理事会(FRB)による今月2度目の緊急利下げを受け、金市場でも対応を余儀なくされた市場参加者が多かったようである。金利市場が大きく動くということは、金を取り巻く“環境”も変化するため、運用する側としては、自宅を引っ越す時と同じ様に、手数料(引っ越し代)を払い、ポジションを巻き戻し(退去)、新たに持ち直す(新居に移る)必要があり、一言で言えば「疲れる」。
キャッシュだけで済めば必要経費と割り切ることができるが、流動性の観点も踏まえ、マーケットに拘束される状況が続いたため、体力的にも消耗した運用者は少なくなかったようである。
ちなみに、筆者は引っ越しが大掛かりになったこともあり、特に2月末から3月初旬は、まともに睡眠を得ることができなかった。


◇セオリーの反対側
ところで、3月9日のクラッシュの影響から、ある取引所で翌日10日の取組高が大幅増となっているとのことで、その背景について教えてもらえないかとの連絡を受けた。理由としては、市場が突発的な暴落に見舞われた際、証拠金の増額などの影響で翌日の取組高は大幅に減少するのがセオリーとして認識されているが、「何故、今回は“逆(取組み増)”なのか」ということ。(のち、実際には、取組高は大幅に減少していたことが判明)筆者は、その話を聞かされた際、多少いぶかるしぐさを交えつつ、主観として「普通に“おいしい”からでは?」と答えた。
というのも、9日の原油市場の暴落は、全市場を巻き込み風景を一変させることになったが、同時に、普段ではお目にかかれないような好機が要所で見受けられたのも事実。これらは、金融市場が混乱に陥った際、しばし見られる光景でもあり、別の角度、立場から市場を俯瞰(ふかん)すると、クラッシュ時こそ取組高が増えてしかるべきという考え方にもつながる。
ポジションを増やせる態勢、つまりリスクがコントロールされた環境下にあったのであれば、違った側面も見えたと思われる。これらは極めて少数派の視点であるものの、セオリーと反対側で動いている世界を知ること、また、その洞察力を養うことは投資活動において重要なポイントではないだろうか。
ちなみに、運用の現場では、その日のセオリーはその日のうちにゴミ箱に捨てる者も多く、新人の運用者は、ゴミ箱に捨てられたセオリーを取り出し学ぶことが風習の一つでもある。

◇金との付き合い方
筆者の知る限り、どのような市場にもフィットする万能なインジケーターは無く、個別市場の特性に合わせツールを選択する必要があるように、プレーヤー/参加者も、市場に応じたスタイルを知る必要があると考える。
時折、金を原油のように“トレーディング”したがる人もいるが、マーケットのキャパシティー、インターコモディティ・マンスへの展開など、優位性の観点において金市場は原油市場と比べて劣る。トレーディングで派手に稼いでいるような印象を持っている人も多いが、一部のプロ以外は雑誌やメディアがつくるイメージにすぎない。
何より、海千山千の原油のような“相場”で戦うためには、最低限のスペックと取引環境が要求される傾向にある。(あくまで傾向。竹やり一本で勝負するかどうかは選択の自由)
金の特性を踏まえると、じっくりと腰を据え、段階的に、時には状況に応じて積み増していくようなスタイルの方が理想的であると言えるかもしれない。派手さは求めず、必要以上の見返りを求めず、長い付き合いになる対象として接してあげるくらいがちょうどいいのではないだろうか。(了)
出典:時事通信社
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